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Monday, March 15, 2021

水谷隼、全日本決勝を語る⑧【決勝と2021年全日本の総括 前編】|卓球レポート - 卓球レポート

 名勝負になった2021年全日本卓球男子シングルス決勝及川瑞基(木下グループ)対森薗政崇(BOBSON)の攻防を、水谷隼(木下グループ)が解説するスペシャル企画。
 最後は、水谷による男子シングルス決勝のまとめと、2021年全日本卓球の感想を前編と後編の2回に分けて掲載する。
 今回は、前編を紹介しよう。

思い切りとサービスの配球でほんの少し上回った及川

苦しみながらも栄冠をつかんだ及川

 森薗がマッチポイントを握り、あと1本で勝ちかけましたが、最後は及川の思い切りとサービスの配球が少しだけ上回った試合でした。ただし、決勝での及川のプレーや戦術自体は「すごく調子がいい」という感じではありませんでしたね。
 及川へのアドバイスは簡単です。効いているサービスがあるならそれを出すべきだし、もっと簡単に勝てる方法があるのに自分からわざわざ難しい方へ行かないことです。
 及川は、何が自分に優位な展開になっているのか、いいパターンと悪いパターンを試合の中でしっかり頭にインプットすることが大切になります。

森薗は試合の中でもっと大きな変化を

森薗は攻めがやや単調になり、大魚を逃がした

 森薗は、サービスもそうだし、レシーブもチキータをしたがってしまうなど、試合がワンパターンになりがちでした。試合の中でもっと大きな変化をつけていかなければ、トップレベルには賢い選手しかいないので、読み合いで遅れを取り、最後は勝ち切れないでしょう。ただし、序盤の2ゲームに関しては、森薗のプレーや戦術は完璧だったと思います。
 森薗はゲームカウント2-0で勝っていた時点で、4-0のストレートで勝つことを意識するのではなく、「たとえゲームオールにもつれても最後は勝ち切る」というゲームプランを立てるべきでしたね。

「守れないから攻める」という選手は、競ったときに扱いやすい

 森薗のように攻撃偏重の選手の課題について、これまでの解説でたびたび述べてきましたが、ここでもう少し掘り下げたいと思います。
 あくまで僕の個人的な感覚というか見解ですが、攻撃偏重タイプの選手に「競り合いで安易に攻めない方がいい」とアドバイスすると、決まって「自分には攻撃しかない」と返してきます。ジンタク(神巧也/T.T彩たま)や賢二(松平賢二/ 協和キリン)などがそうですが、森薗も二人に近いタイプですね。
 攻撃はもちろん大切ですが、「勝負どころで強い選手」というのは攻守のバランスがものすごく優れているし、その状況に応じて、ときには自分のよささえも殺して勝ちに徹するプレーができるものです。
 その点で、森薗も得意のチキータや攻撃をあえて封印して勝つようなスタイルを生み出していかないと、この先、安定して勝つことは難しいでしょう。最近、森薗がチキータ以外の展開からの練習に取り組んでいたのは知っていましたが、やはり今回も最後はチキータに頼ろうとしてしまいました。
 一般論で「攻めて負けたら仕方がない」と言いますが、実は守っている方が苦しい。守る方は劣勢で苦しいですが、一方の攻める方は「ミスしたらミスしたで仕方がない」とある意味割り切れるので気が楽なんですよね。そして、だいたいそういう人たち(攻撃偏重の選手)は「『どうせ守っても勝てないし』思考」なんです。自分は守ったら絶対に勝てないという考えが定着してしまっている。
 しかし、高いレベルで勝とうとするなら、「守っても勝てるけど、ここは攻めるタイミングだから攻める」という戦い方をしていかないといけません。仮に、僕が「守れないから攻めるしかない」という選手と対戦したら、手のひらの上で転がすことができると思います。そういうタイプの選手は、「競れば競るほど攻めてくれる」ことを知っているからです。攻めてくるタイミングを見計らって、逆を突いたりサービスをちょっと変えたりすれば、相手は崩れてくれる。それでも相手は攻めるしかないので、攻撃偏重の選手との対戦は、競ったときに扱いやすいし、プランが簡単なんですよね。

「練習通りに試合ができる」ことが及川の強さ

練習に裏打ちされた安定感抜群のプレーを見せた及川

 話を及川に向けると、彼には大会前にすごく期待していたし、優勝するチャンスはあると思っていました。
 実は、吉村(吉村真晴/愛知ダイハツ)に勝った段階(男子シングルス6 回戦)で、これはいけるかもしれないと思い、及川に「優勝おめでとう」とLINEしていました。Tリーグで同じチーム(木下マイスター東京)で及川をずっと見てきて、本当にポテンシャルがある選手だし、練習量も多くて、それに伴ってメンタルも強い。「及川は勝負どころで絶対に崩れない」ということが分かっていたからです。
 全日本は、何よりもメンタルが重要です。どんな場面でも練習通りのプレーをすることが求められます。とはいえ、試合の経験は試合でしか学べないので、試合で練習通りにプレーするというのは、簡単なようで1番難しいことなんですよね。その点で、及川という選手は、練習したことが試合でできる。練習では強いけれど試合で弱いという傾向は、ほとんどの日本選手に当てはまりますが、及川は練習したことをそのまま試合で出すことができるんです。その様子を昨年Tリーグが再開してからずっと見てきたので、「これは強いな。強くなるな」と思っていました。
 もちろん、及川には改善点がいくつもありますが、だからこそ、伸びしろがすごく感じられます。まだまだ強くなれるし、卓球への情熱もすごい選手なので、将来が楽しみですね。個人的には、宇田(宇田幸矢/明治大)や戸上(戸上隼輔/明治大)よりも及川に期待している部分があります。

及川が練習通りに試合ができる理由

 なぜ、及川は練習通りのプレーが試合で出せるのか。その理由として、まず挙げられるのが「練習に臨むときの気持ちが強い」ことです。
 フォア打ちを例に挙げます。フォア打ちをすると、ほとんどの選手が「ウオーミングアップだからミスしても問題ない」という感じで気持ちが乗っていないのですが、及川は違います。及川とフォア打ちをすると、最初の1本目から「絶対にミスしない。ミスしてはだめだ」という気持ちがこもっていて、ボールの軌道がほかの選手と全然違う。全部入るような軌道で飛んでくるんですよね。その粘り強さというか、無駄がなくて甘えのない練習に対する姿勢が、彼の試合でのプレーにつながっているのだと思います。
 加えて、及川が練習通りのプレーを試合でできるのは、ドイツのブンデスリーガでの経験も大きいでしょう。ブンデスリーガで場慣れしたことは、及川にとってすごくプラスになったと思います。決勝を見れば一目瞭然ですが、及川は終始冷静でした。初めての全日本男子シングルス決勝で、あそこまで冷静にプレーできる選手はなかなかいません。

次回、【決勝と2021年全日本の総括(後編)】に続く

(まとめ=卓球レポート)

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