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Saturday, September 4, 2021

街を救う米国のトラッシュマン「ごみと犯罪減らしたい」 コロナ禍で苦境の収集現場を発信 - 東京新聞

8月、米フィラデルフィアで仲間とともに清掃活動をするテレル・ヘイグラーさん

8月、米フィラデルフィアで仲間とともに清掃活動をするテレル・ヘイグラーさん

 米東部フィラデルフィア市で「ヤ・フェイブ・トラッシュマン(みんな大好き清掃人)」と称する1人の男性が、ごみ拾いを通じた街の再生に取り組んでいる。ごみ収集員として新型コロナウイルス禍の最前線で働き、ごみ問題が犯罪や貧困と重なり合っている現実を痛感。「ごみというもう1つの疫病から街を救え」と訴え、仲間たちと路上に繰り出している。杉藤貴浩)

◆家庭ごみが急増

 8月末の週末、フィラデルフィア北部を走る市内鉄道の線路脇に集まった20人ほどの輪に「トラッシュマン」ことテレル・ヘイグラーさん(32)の姿があった。散乱する廃タイヤや角材、ペットボトルなどを仲間とともに手際良くごみ収集車へ放り込む。「ここは不法投棄が多いね。事故の原因にもなるから危険だ」

 ヘイグラーさんは2月までの1年余り、市が雇用する正規のごみ収集員だった。1昨年末「市の雇用なら安定しているだろう」と気軽な気持ちで公民館職員から転職。収集トラックの後ろにつき、小走りで民家や雑居ビルから出たごみ袋を集める仕事を始めた。

昨年10月、収集が追いつかないごみが散乱するフィラデルフィア市の街角=ヘイグラーさんのインスタグラムから

昨年10月、収集が追いつかないごみが散乱するフィラデルフィア市の街角=ヘイグラーさんのインスタグラムから

 だが、直後にコロナが街を襲い、厳しい現実を思い知った。都市封鎖で人々がこもった家庭からのごみが急増。同僚たちは次々とコロナに感染し、収集が間に合わなくなった。ヘイグラーさんら現場の労働者は「遅い」と怒る市民らの矢面に立つ一方、予算不足の市からは専用マスクなどの感染防護具すら十分に支給されなかった。

◆Tシャツを販売

ごみ収集現場への支援資金などのためヘイグラーさんが売り出したTシャツ=本人のインスタグラムから

ごみ収集現場への支援資金などのためヘイグラーさんが売り出したTシャツ=本人のインスタグラムから

 「市民にも現状を知ってほしい」と会員制交流サイト(SNS)で実態を発信しはじめたのは昨年6月。現場支援のためのTシャツをネット販売すると、売り上げは3万ドル(330万円)を超えた。それをきっかけに安定した職を捨て、今は自身で設立したNPO代表としてネットで募った仲間と清掃を続けている。線路脇での活動に初参加した女性は「彼は街の有名人。SNSを見て賛同した」と話した。

 ごみ収集を通じ、ヘイグラーさんには気付いたことがもう1つある。「ごみが特に散らかっているのが、黒人や移民などが多く住む低所得の地域。それは銃犯罪の多発現場とぴったり重なっていた」。治安が悪く行政が介入しにくい地域はますます荒廃し、住民は銃で自衛するようになる―。その悪循環が、ごみの山に表れているという。地元紙によると、フィラデルフィアでは2015年以来、約1万人が銃撃で死傷し、黒人が7割以上を占めた。

 ヘイグラーさんは最近、仲間とアプリを開発し、登録者が街角のごみを拾って証拠画像を送信すると、協賛企業などから報酬が受け取れる仕組みを作った。行政だけに頼らない清掃の輪を広げる試みだ。「もう300人が登録してくれた。ごみが減れば銃問題も減ることを確かめたい」

 街を暴力からもクリーンに。トラッシュマンの挑戦は続く。

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