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Friday, December 11, 2020

使い捨てに衝動買い…こんな私が「ごみゼロホテル」に泊まってみた - 毎日新聞 - 毎日新聞

 ごみを出さない暮らしなんて、生まれて26年間、考えたこともなかった。できれば、土も、水も、空気も汚さなくてすむ。でも、それって理想でしょ――。そんな思い込みをくつがえしてくれるホテルが、四国・徳島の山あいにある人口約1500人の町にできたという。敷地内には町唯一のごみステーションがあり、建物は町民から不用品を集めて作ったとか。快適に過ごせるの? 疑問を抱えながら、1人で泊まりに行ってみた。【松山文音】

 徳島市から車で約45分。曲がりくねった山道の先に、真っ赤な三角屋根の長屋のような建物が見えてくる。赤い壁についた窓は、大きさも形もまちまち。入り口の「HOTEL」の文字をかたどっているのは、外れた自転車の車輪に、さびたクワやスコップだ。

ごみ収集車が走らない町

上勝町にオープンした「HOTEL WHY」。町民から不要になった窓枠を譲ってもらって再活用している=徳島県上勝町福原で2020年7月16日、松山文音撮影

 徳島県中部に位置する上勝町は、1501人(12月1日現在)と、四国で最も人口が少ない過疎の町。2003年、全国の自治体で初めて、焼却や埋め立てによるごみ処理をゼロにする「ゼロ・ウェイスト(廃棄物)宣言」をした。この町ではごみ収集車は走らない。生ごみは微生物に分解させて堆肥(たいひ)に変える容器「コンポスト」などを使って家庭で処理する。残りのごみは町中心部のごみステーションに自分で持ち込み、44種類に分別する。

 町が20年4~5月に▽ごみステーション▽不用品交換所「くるくるショップ」▽町民と同じようにごみを極力出さない生活を体験できるホテル――の複合施設としてオープンしたのが「ゼロ・ウェイストセンターWHY(ワイ)」だ。建物は上空から見ると「?」の形になっている。わざわざ壁をカーブさせて建てたのは、ごみを持ち込む時、壁に沿って車を走らせながら、種類別の箱に入れられるようにするため。「?」の点にあたる独立した建物が、4部屋だけの小さなホテルになっている。

 「こんにちは」。町からくるくるショップとホテルの管理・運営を委託されている「BIG EYE COMPANY(ビッグアイカンパニー)」のCEO(最高経営責任者)、大塚桃奈さん(23)が笑顔で迎えてくれた。施設を案内してもらいながら、町の取り組みや歴史を教えてもらう。

 かつてごみを野焼きしていた上勝町は1998年に小型焼却炉2基を導入した。しかし、2000年に施行された「ダイオキシン類対策特別措置法」の基準を満たすことができなかった。新たな焼却炉を買う財政面での負担や、焼却によって排出される化学物質の環境への影響などを考慮して翌01年、ごみの35種類の分別に踏み切った。その後、さらに細分化し、16年度にはリサイクル率が全国平均の2割を大きく上回る8割超に達した。全国の自治体でもトップレベルだ。

空き瓶を使ったシャンデリア。施設の窓やカーテンは、町民がいらなくなったものをリメークして使っている=徳島県上勝町福原で2020年7月16日、松山文音撮影

ふぞろいの窓 空き瓶のシャンデリア

 地元産の杉の木がふんだんに使われた建物で、特に目を引かれるのが540もある窓。形も大きさもふぞろいで個性があるのは、町民らから集めた要らない窓枠を使ったからだ。ホテルの受付カウンターは一升瓶のケースを積み上げて作ってある。空き瓶を再利用したシャンデリアは透過光が美しい。

 ごみを極力出さないため、歯ブラシやくしなど使い捨ての無料アメニティーは置いていない。持ってくるのを忘れたら、長く使える竹製の歯ブラシを693円で買うことができる。シャンプーやボディーソープは環境に配慮した製品が備えられ、手を洗うせっけんは、受付で大きな塊から必要なだけ切り分けてもらう。サービスドリンクのコーヒーも、無駄がないよう、チェックインの時に飲む分だけスタッフが豆をひいてくれる。

 45平方メートルほどの客室へ入ると、布をつなぎ合わせたカーテンが目に留まった。ソファベッドは町内の老人ホームで使われていたベッドをリメークしたという。説明されなければ、再利用されたものとは気付かないほどおしゃれ。「時間を忘れて自然の景色や音を楽しんでほしい」と、テレビも置かれていない。

客室のごみ箱。宿泊者は客室でごみをまず6種類に分別する=徳島県上勝町福原で2020年7月16日、松山文音撮影

 普通のホテルと一番違うのが、ごみ箱の種類が多いこと。部屋の片隅にある二つのかごに▽紙類▽プラスチック▽ペットボトル――などと書かれた小さなプラスチック容器が六つ入っている。滞在中に出るごみは、まず自分の部屋でこれらの容器に分けておく。

 「くるくるショップ」へ行ってみた。衣類や食器、家具が並べられている。それぞれの家庭で不要になった品々だ。持ち込めるのは町民だけだが、気に入った物があれば誰でも無料でもらうことができる。持ち帰る際には、ノートに▽日付▽重さ▽居住する市町村名▽持ち帰ろうと思った理由――などを記入する。ビデオテープをもらった人は「見たい映画だった」、湯たんぽを選んだ人は「コレクションにしたい」、化粧台を持ち帰った人は「嫁入り道具に」と書いていた。「食品以外は基本的に持ち込みOK」とのこと。それにしても、トロフィーや椅子の背もたれ部分だけなんて、いったい誰が持ち帰るんだろう。

 夕食は、町内にある月ケ谷温泉に行くか、人気のイタリアンレストランまで足を運ぶか。私は部屋での時間を楽しみたくて、ホテルと同じように廃材を生かして建てられた近くのビール醸造所「RISE&WIN(ライズアンドウィン)」にハンバーガーやポテトのセットの配達を頼んだ。

 夜、部屋からデッキに出ると満天の星を眺められる。初めて流れ星を見て感激した。

自分で45種類に分別

 朝日がまぶしい。窓を開けると、目の前に四国山地の山々が広がる。

 保冷バッグで届けられる朝食は、自室でも、施設内の交流スペースや庭の芝生の上でも食べることができる。部屋でベーグルに徳島名物のフィッシュカツやレタスなどを挟んで味わった。ヨーグルトと一緒に食べるグラノーラ(シリアルの一種)は、「RISE&WIN」でビールを製造する過程で使ったココナツや粉々になった特産の上勝晩茶を再利用しているという。抜群の「マウンテンビュー」を楽しみながら、おいしい朝食を満喫し、幸せな気分に浸った。

 そろそろチェックアウトの時間だ。その前に、ここでは大事な仕事がある。部屋のごみかごを手に、ホテルのスタッフと一緒にごみステーションへ向かった。

施設内にある町のごみステーション。分別したものを入れる箱には、それぞれどこで何にリサイクルされるかが書かれている=徳島県上勝町福原で2020年7月16日、松山文音撮影

 ステーションに箱がずらりと並んでいる。箱にはそれぞれの資源ごみがどこへ運ばれてリサイクルされ、処理に費用がどれくらいかかるかが書いてある。例えば、プラマークが付いていて汚れが少ないものは大分県に運ばれ、費用は1キロあたり約0・49円。同じプラマークが付いたものでも汚れがひどければ、その他のプラスチックと同じ扱いになり、1キロあたり約53・8円になる。「プラはまず、水で洗って干すのが基本だよ」と、一緒になった町民が教えてくれた。環境の汚染につながる洗剤を使うのはご法度だ。

 他にも、電池は北海道まで運ばれ、処理費用は1キロ約118円。アルミ缶は逆に1キロ約90円で業者に買い取ってもらうことができ、町の収入になっている。

 夕食のハンバーガーの包み紙に、朝食に出たゆで卵がくるまれていたラップやティーバッグ、家から持ってきた使い捨てコンタクトレンズのケース……。一つ一つリサイクルマークがあるかどうかを確かめながら、生ごみを含め45種類に分別する。手間取る私を横目に、町民たちは手際よく箱に入れていく。「普段、家庭から出るごみの種類はそんなに多くないし、慣れれば簡単です」とスタッフの田村浩樹さん(32)。家庭ではコンポストで処理する卵の殻やミントティーの茶葉などは、手作りされた木製コンポスト「キエーロ」に入れた。

 ただ、中にはリサイクルできないごみもある。新型コロナウイルスの感染拡大で増えた使い捨てマスクやおむつ、使い捨てカイロ、いろいろな繊維が使われた衣服などがそうだ。ごみステーションの「焼却」「埋め立て」と書かれた箱に入れられるこうしたごみが、町内から出るごみ全体の2割を占めている。焼却は1キロあたり約60円、埋め立ては約22・9円を町が町外の民間業者などに払って引き取ってもらう。

なぜ買うの? なぜ作るの?

 実は、町は20年に焼却や埋め立て処理するごみをゼロにすることを目標にしてきた。だが、達成できそうにない。「これは町の努力だけでは解決できないんです」と施設を運営する「BIG EYE COMPANY」代表の小林篤司さん(42)。「大量の商品を扱う大企業などが、環境への配慮を意識せずに物を作り、販売するが故に、リサイクル処理できないものが減らないという構図がある。このホテルを通して一緒に考え、課題をともに解決していってくれる仲間を見つけていきたい」と話す。

 英語で「なぜ」を意味する施設の名前「WHY」には、消費者に「なぜそれを買うのか、捨てるのか」、事業者に「なぜそれを作るのか、売るのか」を考えてほしいという思いが込められている。

 上勝町では、客が容器を持参し、飲食店がドレッシングやオリーブオイル、パスタなどを量り売りする文化も根付いている。ふと、自分の身の回りを見て、パンやスナック菓子の袋にペットボトルと、ごみになるものの多さに驚いた。楽だというだけで購入したり、本当は必要ないのに衝動買いをしてしまったり……。こんな生活をやめて、ごみを減らす努力をすることが、環境を守る一歩になる。豊かな自然の景色の中で、改めて気付かされた。

 ホテルは、1部屋最大4人まで宿泊可能で、1人1万1000円から。問い合わせはホテル(080・2989・1533)。

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