大量のプラスチックごみが海に流出し、生態系や人々の健康に影響を及ぼしている。日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所、世界銀行、朝日新聞社が6日に東京都内で開いた国際シンポジウムでは、専門家らが調査結果をもとに、深刻な現状を改善するための取り組みや課題について意見を交わした。(関根慎一 編集委員・北郷美由紀)
30年後の海には魚よりプラスチックの方が多くなるとの指摘もあるプラごみ問題。パネル討論では、日常生活との結びつき具合や、対応策が取り上げられた。
インドネシア国立研究革新庁海洋学研究センターのムハマド・レザ・コルドバ上級研究員は、同国の海岸の漂着ごみの70%が使い捨てのプラ製品との調査結果を紹介。大気には5ミリ未満のマイクロプラスチックが浮遊して人体に入りやすくなっているほか、ポリエステルの衣料品を洗濯することで出るマイクロファイバーが河川の汚染源となっていることを指摘した。
ごみの流出経路を調べて解決策を提案するピリカの小嶌不二夫(こじまふじお)代表は、国内の水域に流出したマイクロプラスチックの約20%がスポーツ施設や学校の人工芝からのものだと明かした。緩効性の肥料を覆うプラスチックの殻が水田から河川に流出しているとも指摘。ごみの流出を減らすため、人工知能(AI)を活用して路上のごみの分布を調べる手法を開発。ごみ拾いアプリの利用者も増えているという。
どうすればプラスチックの投棄を減らすことができるか。フィリピンのNPO「セーブ・フィリピン・シー」のエグゼクティブ・ディレクター、アナ・オポサンナ氏は、同国が世界で3番目にプラ投棄が多い国だと説明。廃棄物処理には行政の取り組みが欠かせないものの、人々の行動変容を促すことは民間が主導してできると訴えた。
SNSを使って海洋汚染の問題をわかりやすく伝える一方、使い捨てごみが出ない結婚式や食事の楽しみ方を提案している。若者主導の活動や、企業が生産者責任を果たすことも重要だと述べた。
プラごみの投棄問題の解決には国際協調が欠かせない。環境省の大井通博・水環境課長は、プラ汚染に関する条約交渉を説明した。2024年末に調整を終えることを念頭に、製造から廃棄まで一連のライフサイクルで捉え、世界共通の目標を設定することで合意形成が進んでいるとした。
ただ、産業界から条約が新たな規制になると懸念の声もあがる。そのため、プラスチックの有用性は認められるとして理解を求めた。
参加者が最も強調したのは、現状への危機感だ。正確な流出量や人体への影響など解明されていない点が多いなか、対策を急がないと手遅れになるとの考えで一致。国境を超えた連携を進めていくことも確認した。
「使用を減らし、リサイクルを」 ジェトロ・アジア研究所 小島道一氏
プラスチックは有害な化学物質を体内に取り込む経路になるとも言われ、環境への流出を止めることが重要だ。海への流出はアジア諸国が多いが、どれくらい環境中に出ているか正確にわかっていない。
タイでは死んだジュゴンの赤ちゃんの消化器官からプラが見つかった。サンゴ礁に漁網が絡まり成長が遮られたり、マングローブ林の根にプラがかぶさり成長が阻害されたりしている。
対策は三つある。一つめは使用を減らす。レジ袋の有料化を進め、生分解性プラなどへ代替する。二つめはリサイクル。プラの生産者に責任を負わせて進める。色つきペットボトルをなくしたように、リサイクルしやすい設計を業界や規則で決める。三つめは適正処分。途上国では農村からの流出が多いが、収集サービスは広がっていない。一部事務組合をつくり、農村部で広域処理を進めた日本の経験を共有できる。
「民間投資の促進が重要」 世界銀行開発局長・ベノワ・ボスケ氏
プラスチックごみはなぜそこにあるのか、どこから来るのか。プラごみをすべての段階で減らす「ライフサイクルアプローチ」が必要になってくる。プラの流出を止めるだけでは不十分で、再利用やリサイクルしやすくするように製品化し、ごみが価値となるような循環型経済を構築することが不可欠だ。
マレーシア、フィリピン、タイではプラスチックの4分の3がリサイクルされず、年60億米ドルが無駄になっている。マニラの川の一部はプラごみで埋まり、治水が難しくなった。国と地域が一体となって資源循環に向けた政策を作り、民間投資を促進するべきだ。国・地域ごとに政策が違えば民間からの投資は難しくなる。
カンボジアとラオスの沿岸や河川ではビニール袋やストロー、ペットボトルなど流出の多いワースト10のプラがごみ全体の7~9割。ターゲットを絞り、プラごみを削減していく。
からの記事と詳細 ( 海洋プラごみ 生態系や人体に影響も 国際シンポで専門家らが議論:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル )
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