特集
#1
薄氷踏む日本のエネルギー【1】
冬の到来を控え、日本のエネルギー問題が風雲急を告げている。ウクライナ危機や円安による燃料費高騰で電力料金が跳ね上がり、立ちすくむ企業活動や国民生活。寒波襲来や発電所の事故といった不測の事態に陥ればブラックアウト(全域停電)も現実味を帯びる。原子力や化石燃料への依存を下げ、クリーンエネルギーへとかじを切る崇高な目標はどこへ――。数カ月先の安定供給さえ視界不良な、この国のエネルギーのリアルを追う。
「薄氷踏む日本のエネルギー」連載第1~2回は、核のごみ問題に迫る。岸田政権が原発再稼働を進める方向へ転換を図るなか、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)をどう扱うかは喫緊課題となる。地中に埋める核ごみの最終処分場選定に向けた文献調査が始まっている北海道寿都町を訪れ、課題を探った。
■連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
・原発核ごみどこへ、調査開始で分断された北海道の町(今回)
・原発核ごみ問題、「ふるさとを守りたい」反対派が描く未来
・陸上風力発電のジレンマ 自然エネが自然を脅かす?
・新電力の相次ぐ値上げと経営破綻、電気代2倍に老舗遊園地が絶叫
・エネルギーコストが全体の5割も 産業界を押しつぶす負担増
・この冬を乗り越えられるか サハリン2「途絶」、2つのケース
・流出止まらぬ国富 日本はエネルギー弱者からの脱却を
(写真:池内 陽一、以下同)
想望──。
札幌市から車で約3時間、北海道西南部の港町・寿都町にある弁慶岬。「だし風」と呼ばれる強い風が吹く岬にそびえ立つ弁慶像の台座に、その2文字が刻まれていた。
日本海を望むこの地には、源義経とその家来の弁慶にまつわる伝説がある。1189年、戦で難を逃れた義経は、この地に一時滞在。「援軍がえぞ地に向かった」との情報を得て、弁慶は毎日岬に立ったが、船影を見ることはついぞなかった──。そんな言い伝えだ。銅像の表情はどこか寂しげに見えた。
そんな弁慶の姿と重なる人物がいた。片岡春雄氏。寿都町長だ。
町では、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けて、関連の資料やデータを調べる「文献調査」が進んでいる。
北海道南西部の小さな港町・寿都町。2年前、核のごみの最終処分場問題が突如浮上した
議論の輪広がらず
「文献調査に手を挙げる他の自治体が出てこなければ、町内での議論の輪も広がらない」。一部の町民を集めて9月下旬に開かれた勉強会の終了後、片岡町長はいら立ちを隠さなかった。
その矛先は、報道陣と、事業の当事者である原子力発電環境整備機構(NUMO)にも向かった。「メディアは町民に不安感を与えないようにしてほしい」「NUMOは早く(文献調査に手を挙げて)我々の仲間となる自治体を見つけてほしい」
9月下旬、寿都町で開かれたNUMOと町が主催する勉強会で、片岡春雄町長は国やNUMOに対し、主体的に文献調査へのお願いを全国各地にすべきだと要望した
漁業が基幹産業である人口2700人余りの小さな町で、核ごみの最終処分場の問題が突如浮上したのが2020年8月。同年11月、寿都町と北海道神恵内村で文献調査が始まった。
最終処分場の選定は3段階ある。文献調査は第1段階で2年程度とされ、最大20億円の交付金が支給される。第2段階の「概要調査」は4年程度行われ、最大70億円を支給。第3段階の「精密調査」は14年以上かかるとされ、交付金額は未定だ。
岸田政権が原発再稼働を進める方向へ転換を図るなか、原発から出る核ごみをどうするかは喫緊の課題だ。最終処分場のない原発は「トイレのないマンション」ともやゆされる。
議会が誘致請願を採択するなど、村民の一定理解がある神恵内村に対し、寿都町は町長が旗を振って調査に応募したという違いがある。応募前、町議などから反対の声が上がったが、片岡町長が決断した。賛否が渦巻き、町民の間で分断が起こった。
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