ヴィンケルマン氏がランボルギーニに戻ってきた意味
「パンデミックの影響があるので、特別な会が催されることはなく、一部の同僚に復帰を祝ってもらっただけですが、先日、ランボルギーニの社員食堂を訪れたとき、そこにいあわせた従業員全員がスタンディングオベーションで私を出迎えてくれました。このとき、私は深い喜びを味わいました」
およそ4年振りに会長兼CEOとしてランボルギーニに戻ってきたステファン・ヴィンケルマン氏は、従業員との感動的な再会の様子をそんな風に語った。
およそ4年振りに会長兼CEOとしてランボルギーニに戻ってきたステファン・ヴィンケルマン氏。
© GUINDANI STEFANO SGP
ヴィンケルマン氏がランボルギーニの会長兼CEOに復帰すると聞いて、どれだけ多くの人が深い感慨を味わっただろうか? 少なくとも彼の人柄を知るランボルギーニ・ファンにとっては、簡単には聞き逃すことができないニュースだったはずだ。
1964年にベルリンで生まれたヴィンケルマン氏はローマで政治学を学び、ミュンヘンで学位を取得したあと、メルセデス・ベンツやフィアットに勤務。2005年にランボルギーニの会長兼CEOに任命されると、2016年までこの要職を務めた。
その後はフォルクスワーゲン・グループの人事によりクワトロGmbH(現アウディ・スポーツGmbH)のCEO、ブガッティの会長を歴任し、今回の復帰に至った。ただし、ブガッティの会長職は当面、兼任する形になる。
現行モデルの「ウラカン」、「アヴェンタドール」、「ウルス」とステファン・ヴィンケルマン氏。
© GUINDANI STEFANO SGP
なぜ、ランボルギーニ・ファンにとってヴィンケルマン氏は特別な存在なのか?
現在、ランボルギーニのカタログモデルは「ウラカン」、「アヴェンタドール」、「ウルス」の3台のみであるが、これらのモデル開発に際して決定的な役割を演じたのはヴィンケルマン氏だった。とりわけSUVのウルスを発売し、ランボルギーニの企業規模をそれまでのおよそ2倍まで拡大したのはヴィンケルマン氏の功績だったといって間違いない。
しかし、そうした経営手腕を越えて、彼はひとりの人間として従業員やランボルギーニ・オーナーから愛されていた。一見したところスマートで冷徹なビジネスマンに思えるが、実は情に厚く、ひとりひとりの従業員に深い思いやりをいだいていたというエピソードはこれまで何度となく耳にしたことがある。
新型コロナ禍でも販売は好調
2020年の経営概況の発表が直前に迫った3月某日、私はヴィンケルマン氏と1対1でインタビューするチャンスを手に入れた。もちろん、日本とイタリアをインターネット回線で結んだリモート形式のインタビューである。
彼に取材するのはブガッティ会長時代の2019年以来、およそ2年振り。簡単な挨拶を済ませると、ヴィンケルマン氏は早速2020年の営業成績について語り始めた。
「昨年の3月以降、パンデミックの影響で私たちはおよそ70日間、会社をシャットダウンしました。ただし、これはランボルギーニだけが原因ではなく、サプライヤーに起因する部分もありました。また、第1四半期から第2四半期にかけては世界中のディーラーネットワークもほとんど稼働していない状況でした。にもかかわらず、営業利益は過去最高を記録しました。また、売上高と販売台数は2019年に次ぐ史上2番目の成績でした。ちなみに売上高は16.1億ユーロ(約2010億円)、販売台数は7430台(2019年は8205台)です。もしもパンデミックがなかったら、販売台数は史上最高を記録していたでしょう」
アヴェンタドールの製造ライン。
© RAFAEL CAVALLI
ヴィンケルマン氏は以前から日本市場のことを熟知しているが、今回も私が質問する前に、彼の側から日本に関する言及があった。「日本市場は引き続き堅調です。販売台数のランキングは世界第4位なので、ランボルギーニにとっては引き続き非常に重要なマーケットといえるでしょう」
ちなみにランボルギーニにとってもっとも大きな市場はアメリカで昨年実績は2224台。2位はドイツ(607台)、3位は中国(香港とマカオを含む。604台)で、4位の日本は600台。日本は数年前に販売台数で世界第2位になったことがあるが、あと8台多く売れていれば2020年も2位にランキングしたことになる。ヴィンケルマン氏が日本を重視するのも当然といえるだろう。
2021年に入ってからのランボルギーニは、さらに勢いを増しているという。
最新のウラカンEVO RWDスパイダー。
© DIEGO VIGARANI
「今年は昨年以上にポジティブなスタートを切っています。1月と2月に納車した台数は、パンデミックが起きる前の昨年同時期の実績を上回っているほか、すでに9カ月分の生産枠に相当する受注を頂戴しています」
ここで「もっとも売れているモデルはなにですか?」と質問してみた。
「その答えはとても簡単ですよ、ミスター・オオタニ」 ヴィンケルマン氏は上機嫌そうだった。「ウルスです。2番目がウラカン、そしてアヴェンタドールの順です」
ランボルギーニ初のSUV「ウルス」。
© Charlie Magee
ウルスの製造ライン。
© FOTO GUIZZARDI UMBERTO
ハイブリッドモデル登場へ
続いて今後の計画について訊ねてみた。
「まずは6月ないし7月にウラカン・スーパートロッフェオ・オモロガータのローンチをおこなったあと、2台の新しいモデルを投入します。いずれもV12モデルをベースとしたものですが、詳細についてはお話しできません。いずれにせよ、今年後半に発表する予定です」
ヴィンケルマン氏が「詳細についてはお話しできません」と答えているにもかかわらず、私は「それらはハイブリッド・モデルですか?」と、図々しく質問してみた。
同社初のハイブリッド・スーパーカー「シアン FKP37」。
© Lean Design GmbH
レザーと人工皮革「アルカンターラ」をたっぷり使ったシアン FKP37のインテリア。
すると「2台のうち1台はシアンをベースとしたハイブリッドモデルです。つまり、バッテリーではなく“スーパー・キャパシター”を搭載しています。ただし、最高出力はさらに向上しており、結果的に加速タイムも改善されています」
この情報、実は外部に発表する予定はなかったが、どうやら私へのサービス精神で教えてくれたものらしい。ヴィンケルマン氏の復帰祝いとして、ありがたく頂戴しておくことにしよう。
いずれにせよ、ランボルギーニが今後、電動化を本格化させることは間違いない。これについて、ヴィンケルマン氏はどのように捉えているのだろうか?
文・大谷達也
からの記事と詳細 ( ランボルギーニの新トップが語るスーパーカーの今と未来──“猛牛”も電動化か? - GQ JAPAN )
https://ift.tt/3wEeN7p
No comments:
Post a Comment