プラスチックごみを減らす第一歩として、身近な学校給食のプラスチック製ストローをなくしたい。小学3年生のえりかさんが呼びかけたオンライン署名には、2万人分を超える賛同が集まった。取材して「私も記者として何かできないか」と自問自答し、まずはプラスチックごみ問題のそもそも論について専門家にあらためて取材してみた。(デジタル編集部・小寺香菜子)
◆プラごみの7割以上は実は燃やされていた
「プラスチックごみの問題点は一つではありません」。長い間ごみ問題の研究に打ち込んでいる国立環境研究所(茨城県つくば市)上級主席研究員の寺園淳さんは、豊富な資料を示しながらこう話しだした。
寺園さんが示した問題点をまとめると
(1) 燃やすことで大量の二酸化炭素(CO2)が発生し、地球温暖化を促進する
(2) リサイクルが簡単ではない
(3) 海に流出すれば、海の生物に悪影響を与える
の3点になる。
プラスチック循環利用協会によると、2020年の日本のプラ廃棄物排出量は822万トンに上る。処理方法別にみると、燃やして熱をエネルギーとして活用したり、固形燃料に再生したりする「サーマルリサイクル」が63%と最多だ。このほか「単なる焼却」も8%ある。
つまり、寺園さんが(1)で指摘するように、日本の廃プラのうち7割以上は燃やされるか燃料にされるかしている。プラスチックのほとんどは化石燃料である石油から造られており、燃やされればCO2が排出される。
◆中国の輸入規制でリサイクルの受け皿なくなる
次に「リサイクルが簡単ではない」というのはどういうことか。まず第一に、全体の6割を占める「サーマルリサイクル」は、結局燃やすためCO2が排出される。「世界ではリサイクルとはみなされないことが多い」(寺園さん)のが実情だという。
一般にプラスチックのリサイクルというと、回収したペットボトルや食品トレイを原料にしてボトルや衣服などに再生するイメージが強い。こうした処理は「マテリアルリサイクル」と呼ばれるが、21%にとどまり、しかもそのほとんどが国内でなく海外でリサイクルされている。このほか化学原料として再生する「ケミカルリサイクル」もあるが、わずか3%にすぎない。
「マテリアルリサイクル」が思うように進まない要因として寺園さんは第一に、中国の輸入規制を挙げる。中国はかつて、日本を含む世界中から大量のプラごみを輸入してリサイクルしていた。しかし2017年末から規制を強化し、受け皿がなくなった。現在は国内でリサイクルの枠組みを強化しているが、プラ製品の基となる樹脂の種類が多いことや、汚れやほかの物質が付着したプラごみが多いことなどから、進展はままならないという。
◆生態系全体に影響及ぼすマイクロプラスチック
3点目の「海の生物への悪影響」は、えりかさんの行動のきっかけとなった問題だった。では具体的にどのように影響が出ているのだろうか。
そもそも、プラごみが独り歩きして海にまで行くはずがない。最大の原因は「ポイ捨て」だと思われる。路上などに捨てられたごみの一部は、排水路や川などを経由して海にたどり着く。このほか災害によるごみ流出など経路はさまざまだが、いずれにしても人間の行為が原因であることは変わらないという。
環境省のデータによると、死んだ海鳥や魚の胃から、プラスチックが見つかっている。海を漂うプラごみは細かい破片となり、さらに細かくなって「マイクロプラスチック」に分解される。小さな魚や海鳥などがこれらのマイクロプラスチックを摂取し、さらにそれを捕食する魚なども同じように体内に取り込む。結果的に、生態系全体に影響を及ぼすことになる。
日本のプラごみ海洋流出量は、国別では30位でも、量にすると2万〜6万トン。寺園さんが見せてくれた都内の荒川の写真には、ペットボトルなど様々なごみが打ち上げられていた。河原に生えているヨシの間にはマイクロプラスチックも凝縮するように浮かんでいる。寺園さんは「全てのごみが適切に処理されている訳ではないし、災害などで、プラスチックが流されてしまうこともある」と沈痛な表情を浮かべる。このままでは、2050年には海洋中のプラスチック量が魚類量より多くなってしまうというデータもある。
◆「活動する人をひとりぼっちにしない」
では、私たちにできることはないか。寺園さんは「プラスチックの使う量を減らし、最後にリサイクルをする。難しければ適正に処理する」ことが大切だ、という。プラスチック包装をした商品を買わない、リサイクルされた商品を選ぶ、一つ一つの行動が大事になる。もちろんポイ捨てはいけないし、ごみを見つけたら回収することも必要だ。
ごみ問題や気候変動問題について声を上げる若い世代も多くいる。寺園さんは「社会は少しずつ変わってきている。活動する人を、一人ぼっちにせず、応援することが大切だ」と語った。まだ小学3年生のえりかさんも、自分の子どもにあたる世代への影響を心配していた。私たち大人も、えりかさんが描く未来のために、行動していきたいものだ。
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