岸田文雄首相が17日、就任後初めて東京電力福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)を視察した。東京新聞原発取材班は11日、原発の上空を本社ヘリ「おおづる」で飛ぶと、事故から10年半が過ぎても、「収束」とはほど遠い現実が広がっていた。(小野沢健太、写真は沢田将人)
敷地南側の1~4号機原子炉建屋周辺には、汚染水を浄化処理した水をためる円筒形のタンクがひしめく。北側はがれきなどが詰められたコンテナが積み上がっていた。事故以降、福島第一原発は放射能で汚染されたゴミが増えるばかり。原子炉内に溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しなど、本格的な収束作業に入れるめどすらない。
◆高線量のベント配管切断は進まず
外観から分かる進展は、高さ120メートルあった1、2号機間の排気筒が2020年に半分の高さに切断され、倒壊するリスクが減ったことくらい。東電の計画では、その排気筒と原子炉建屋をつなぐ配管の撤去工事が始まっているはずだったが、配管付近はひっそりとしていた。
この配管は事故時、原子炉内の圧力を下げる排気(ベント)により高濃度に汚染された。人が近づくのは危険なため、東電は遠隔操作での配管撤去を計画し、10月上旬から始める予定だった。しかし、模擬試験が長引き、今も開始のめどは立っていない。工程通り進まないことが、当たり前になってしまっている。
◆海洋放出で処理水をためる立て坑建設地は
重大事故にはならなかった5、6号機を見ると、海沿いにクレーン車などの重機があった。この場所には、汚染水を浄化処理した後の水(処理水)の海洋放出に向けた立て坑が掘られる。そこから海底を約1キロ掘って地下トンネルを造り、海水と混ぜた処理水を沖合に放出する計画。東電は23年春ごろの放出開始を目指し、地元への説明を続けるが、漁業関係者を中心に反対の声が根強い。
◆建設中のタンクも
敷地の南端では、海洋放出に備えるため、新たなタンクが建設されていた。ふたが取り付けられる前のタンクが4基見えた。東電は22年11月までに計23基(約3万トン)を確保するという。
◆地下排水路の掘削口がぽっかり
汚染水を浄化処理する多核種除去設備(ALPS)の建屋近くには、ぽっかりと穴が空いていた。大雨が降ったときに雨水を排水する地下水路の建設工事をしていた。重機の脇にはトンネルの部材とみられる円い筒も見えた。来年の台風シーズンまでに、地下トンネルを海までつなげる。
◆計画外のがれき「仮設集積」 9カ月間で激増
敷地北部には、多くのコンテナが積み上がっていた。計画外の場所に作業で出たがれきを置いた「仮設集積場所」だ。計画されたがれき置き場は斜面などを考慮しなかったため、当初の想定よりもコンテナを置ける場所が少なく、コンテナの並べ方などを整理する必要に迫られた。今年1月から計画地への搬入を止めて整理作業をしたが、3月にコンテナ1基から放射性物質を含んだ水が漏出。点検などで整理が遅れ、仮設集積がどんどん増えている。
管理が不十分な仮設集積場所は約150カ所に点在し、がれきの総量がどれくらいに上るのかも不明だ。原子力規制委員会から管理不備を指摘され、東電の対応は後手に回っている。
北部のこの場所は、1月時点ではコンテナは少なかったが、9カ月間で密集するまでになった。東電は仮設集積場所を最小化すると説明するが、これだけの量を計画地へ移せるのかは疑問だ。
上空から見ても迷走ぶりばかりが目立ち、事故収束作業はまだまだこれから。衆院選で自民党は原発の再稼働を進める公約を掲げているが、事故が起きれば10年半たってもコントロールできない現実から、目を背けてはいけない。
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