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Monday, July 26, 2021

「ごみゼロ」を地域のブランドに…山深い町に移住した24歳の挑戦 : 社会 : ニュース - 読売新聞

 どうしたらごみをゼロにできるかをローカルな視点で考えたい――。大塚桃奈さん(24)が大学卒業後に向かったのは、徳島県東部の上勝町。2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をした自治体だ。20年5月、同町にオープンした環境型複合施設「上勝町ゼロ・ウェイストセンター WHY」を管理・運営するリーダーとして、山深い人口1500人の町から国内外に取り組みを発信している。(編集委員 宮智泉)

 上空からみるとクエスチョンマークの形をしたこの施設は、ごみの分別拠点、不用品を持ち込み、必要な人が無料で持ち帰れるリユースショップ、交流スペースや体験型宿泊施設を併設する。ごみの総量削減とリサイクルに取り組む同町は、自治体によるごみ回収がなく、町民がごみを持ち込み、45種類に分別する。リサイクル率は約80%だ。

 「ここには町の人たちがごみ問題に取り組んできた18年間の実績とストーリーがある。ゼロ・ウェイストを地域のブランドとして広く伝え、ごみからくらしを考える。そのきっかけを作っていくのが、私の仕事です」

 ファッションデザイナーになるのが夢で、中学時代にはデザインコンテストで賞をもらった経験もある。高校3年の夏休みにロンドン芸術大学の夏期コースに短期留学した。「大量生産・大量廃棄などファッション業界が抱える課題を調べる過程で服と社会の結びつきを考えるようになり、環境問題に関心を持ちました」

 同じ頃、ファッション業界の裏側を描いたドキュメンタリー映画「ザ・トゥルー・コスト」を見て、ショックを受けた。

 「ファッションは楽しいと思っていたが、考えていたのは着る人のことばかりだったと気が付いたんです」

 大学では公共政策と環境研究を専攻。大学1年の時から、留学費用をためるために、店舗スタッフを募集していたファッションデザイナーの皆川明さんの店でアルバイトを始めた。皆川さんのブランド「ミナ・ペルホネン」はどこか詩的で、使っているテキスタイルにひとつひとつ名前がつけられている。セールもしない。

 長く大切にしてもらえる服を作るために、国内の生産者との長く続く関係を築いていることも知り、感動した。

 大学で学ぶ開発学では海外での支援やフェアトレードについて取り上げられることが多かったが、国内の生産者と持続可能な関係を作っていくものづくりもフェアトレードなのだと気付いたという。

 ものづくりやごみを出さない生活などについて考えていたころ、母親の高校の同級生で、建築家の中村拓志さんが「ゼロ・ウェイスト宣言」をした上勝町の活性化プロジェクトに関わっていることから上勝町の存在を知り、2年の冬休みに徳島市内からバスを3回乗り継いで訪れた。農家民宿に泊まり、餅つき大会に参加するなど地元の人との交流を楽しみ、生き方や暮らしについて考えた。

 3年生でスウェーデンに短期留学。滞在中にプロジェクトメンバーから依頼されて、循環型社会の取り組みを視察するツアーをコーディネート。若い世代が積極的に参加する様子も目にして、環境ビジネスへの可能性を実感した。

 帰国後、卒業後の進路を考えて就活セミナーに参加したが、「履歴書だけで判断され、受ける企業を他人にゆだねることに違和感が残った」という。

 「留学中に上勝町のプロジェクトに参加しないかと声もかけられた。いろいろな大人に進路を相談したら、ある人に『心がすーっと向かう方向に進めばいい』という言葉をもらった。心がすーっと向かう場所。それが上勝町でした」

 同センターの活動に国内外から注目が集まる。4部屋の宿泊施設は、コロナ禍でも年間利用者が1200人に上った。「今後のひそかな目標は、町の人口1500人を超えること」と笑う。

 環境問題への関心が高くアクティブなZ世代ということもあり、シンポジウムの依頼や取材も多い。高校生のグループからイベントに呼ばれることもある。だが、本人は「まだ手探り状態で、日々学びです」と、謙虚だ。

 人とのつながりを大切にしている。無農薬米を作る農家の手伝いや、友人らと料理を持ち寄り、星を眺める夜のピクニック――。同町での出会いや体験を通したワクワクする気持ちが、次のアイデアを形にする原動力にもなっている。

 カナダから移住してきた女性らと、若い世代が集う古民家のシェアハウス構想を練り、回収した洗剤の詰め替えパックを再生して遊具のブロックも、日用品メーカーと作った。環境問題への関心が高い人気モデルの森星さんは宿泊したのをきっかけに、1周年のトークイベントにも出演してくれた。少しずつだけれど、共感する人の輪が広がっていることを実感している。

 「ひとつの団体ではできなくても、異なる視点の個人や組織が集まれば、できることはある。循環型社会を目指す仲間を増やしていきたい」

 大塚桃奈さんに、尊敬する人物などを聞いた。

――尊敬する人物

 上勝町で“仙人”と呼ばれる中村修さん。自給自足の生活で、自分の時間もデザインしています。「生活はひとつの作品」という中村さんの言葉が、今も心でこだましています。生活へのまなざしを教わりました。

――好きな言葉

 「Be curious, be creative」(好奇心を持ち、創造的に)。いつもときめきをもって物事に取り組んでいく姿勢を忘れないようにしたいと思っています。

――影響を受けた本

 染織家で随筆家、人間国宝の志村ふくみさんのエッセー「ちよう、はたり」。「物を創るとは汚すことだ」の一文に、がつんと衝撃を受けました。ものを生み出す心構えを学んだ一冊です。

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