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Thursday, May 6, 2021

海の中にプラスチックごみの山がある……神奈川県の全海岸線をごみ拾いしながら調査踏破する活動が進行中 | ルアマガ+ - ルアマガ+

海辺で見かける打ち寄せられたプラスチックごみの山。きれいであってほしいなあとは思いつつ、どうしても目に入ってしまいます。他所から流れてきたのか、誰かが捨てたものなのか。見つけた人が拾うしかないんだろうなと思いつつ、途方もない量に対して無力感にさいなまれてしまうもの。

ではどうしたらいいのか。行政の対応やさまざま活動による方法論があるかとは思いますが、今回はNPO法人海の森・山の森事務局が実践している、海岸プラごみが実際のところ果たしてどれくらいの量があるのか、神奈川県の海岸線を西は湯河原から、東は川崎まで、435.09kmすべて歩いて拾ってみようという極めて行動的な取り組み「プラゴミバスターズ  三匹のおっさん」の活動をご紹介します。

誰かが捨てたプラごみが、やがて誰かの口に

プラスチック製品といえば現代の生活においては切っても切り離せないほど、ごく当たり前に日常の中に存在するもの。

ですが、いちど作ったプラスチックはほぼ自然環境内で分解されることがなく、様々な経路をへて海にたどり着いたプラスチックは微粒子化し、食物連鎖に取り込まれやがて人の口に入って体内に蓄積される……いわゆるマイクロプラスチックが大きな問題になっています。

いま釣りは大ブーム。各地の釣り場は空前の賑わいといいますが、それと同時に釣り場においてもごみの不法投棄が大きな課題となっています。釣りも決して無関係とはいえないこの問題。さてその実態は……。

【Profile】

豊田直之(とよだ・なおゆき)

1959年生まれの横浜出身。東京水産大学(現在の東京海洋大学)卒業。趣味の釣りがこうじて全国を飛び回るかたわら、水中映像の世界に惹かれ、水中写真家・中村征夫に師事。独立後、海洋撮影プロダクション有限会社テイエムオフィスを設立。2012年、NPO法人海の森・山の森事務局を設立、自ら環境保全活動の啓発に取り組む毎日。『色と形で見わけ 海・川・湖沼で楽しむ 釣魚図鑑(ナツメ社)』など著書多数。今後の目標は水の世界を通して深海からヒマラヤまでの映像を撮影すること。

自分の目で神奈川の海の実態を見てみたい

「本日はどうぞよろしくお願いいたします。個人的なイメージですが、環境活動って大切なことではありつつ地味な印象があって、いまいち伝わりにくいところがあるんじゃないかと思っています。その点、湯河原を出発して神奈川県の海岸線をごみ拾いしながら全部踏破してやろうという『プラゴミバスターズ 三匹のおっさん』は冒険行としても面白いというか、この先どうなっちゃうのかな? という興味を引きます。まず、この活動をはじめようと思ったきっかけを教えていただけますでしょうか」

豊田「ぼくらのNPO法人海の森・山の森事務局では様々な環境活動の取り組みを行っているんですが、その中のひとつに小学校などで地元の自然や環境がどうなっているのかを伝える『環境出前授業』というものを長いことやっています。そこで海のプラごみの問題を取り上げてきたんですが、子どもたちの素朴な質問に『豊田さん、プラスチックごみが1番多く集まってるところってどこなんですか?』というものがあった。これに答えられなかったんですよね。そしてとても大切な部分をぼくら自身が理解していないと気がついた。じゃあ、いっちょう神奈川県の海岸線全部みてこようよ、ということを仲間たちと餃子の王将でギョーザをつつきながら話しあいまして、その翌日にはもう機材を揃えて湯河原を出発していました」

環境出前授業の様子。

「そんなノリと勢いだったんですね(笑)。豊田さんはNPO団体代表であることと同時に、写真家でもあり、釣魚図鑑も出されているなど、『自ら人に伝える』というプロフェッショナルでもあります。そのうえで特に気をつけていることはありますか?」

豊田「そうですね、子どもたちにはやはりインパクトのある映像や写真がものすごく伝わりやすいです。言葉だけではわかりにくい現実の問題の深刻さも映像だととても興味を持ってもらえる。『プラごみバスターズ』もごみ拾い道具だけでなく、YouTube配信のためのスチールや動画機材、空有映像用マルチコプターも2機持ち込んでいます。そして興味をもったうえで現場に出てきてもらうと、実感が湧くとみんな言ってくれます。大事なのはリアルな現実を伝えることです」

参加している豊田さん以下3人とも写真家という撮影力抜群の編成で進行中。

身近な海も行ってみれば美しいし面白い

「現在、『プラゴミバスターズ』は江ノ島鵠沼海岸まで踏破され、地図の直線距離でいえば神奈川県の中間地点を超えています。ここまでの活動を振り返って、気がついたことがあれば教えていただけますでしょうか」

豊田「山がそのまま崖のように海に落ち込む湯河原から小田原はやっぱりキツかったです。真鶴半島なんかは地元の漁師さんにあそこ通れるんですかねえなんて聞いたら『干潮なら通れるんじゃない?』とか言われて、行ってみたら垂直の壁みたいな磯場で(笑)。通行不可能な部分はさすがに迂回して、ごみを拾いながら前進しています」

「真鶴半島の海岸線をどう通過したのかがとても気になっていたんですが、やっぱりそうですよね(笑)」

豊田「実際に自分の足で通して歩いてみてわかってきたこともあります。例えば真鶴半島であれば、海辺から見てみればこんなに景観の美しい場所だったのかということだったり、植生や生態系の豊かさにも興味が湧いてきて、これだけでもとても面白い。湘南海岸も同じような風景に見えるかもしれないけれど、砂浜であったり礫浜であったり自然環境や地形の変化していく様子を実感します」

「この先は三浦半島や、横須賀から先は都市部に入っていきます。海岸部にアクセスできない地域も多くなってくるかと思いますが……」

豊田「この先は行けるのか行けないのか? 実際に踏破していくのはちょっとした現代の冒険で、やっていて楽しいですね。真鶴半島の崖地とか(笑)。どんな問題が立ちはだかるのか、どうやって困難を克服していくかもこの企画の面白さですね」

釣りもごみの原因になっている

豊田「そして残念なことですが、やはりごみもたくさんありました。小田原までの海岸線は崖地で人が入りにくい磯場やゴロタ浜がずっと続いています。釣り人くらいしか人が入らない。当然ごみも回収されない。岩場にはたくさんのプラごみが漂着して、それがバラバラになりまた海へと出ていきます」

「そんな場所だからこそ、入る人はごみを出さないようにしたいですね。このあたりの海岸は有名な釣り場もいくつかあります。そのあたりはいかがでしたか?」

豊田「やはり残念ですが、釣り人によると思われるごみもたくさんありました。飲食物関連だけでなく意図的に捨てたのか風に飛ばされたのか釣り具の袋や仕掛け、中には釣り竿なんかも。酷いものは使いかけのエサが放置してあって、中は腐って凄まじい異臭を放っていました。それらも回収してきました」

「釣り具もできるだけごみの出ないパッケージや販売方法を工夫するといったことも大切になりそうです。ちなみに回収したごみはどのように処理されているのでしょう」

豊田「当初は地元の駅やコンビニと連携、あるいは知己のダイバーショップの力を借りて回収したごみを処分していました。しかし量が増えてくるとそうもいかなくなってきました。現在は公益財団法人かながわ海岸美化財団という団体に協力をしていただいています。先方指定の場所に回収したごみを持っていけばいいので、だいぶスマートになりました」

海底には信じられない量のプラごみが集まっている

NPO法人海の森・山の森事務局の主な活動について

「豊田さんは他にも様々な活動に取り組まれています。海底プラごみ回収活動ではごみのたまり場の発見がニュースにもなりました。主な活動を教えてください」

豊田「現在は主に『大岡川PGT大作戦』、これは毎月第1土曜日と第3土曜日に横浜の中心部を流れる大岡川でごみ拾いを行うというもの。大岡川の活動から話が広がり、4年前から始めたのが小学校への『環境出前授業』。湘南海岸にものすごい分量が打ち寄せられているマイクロプラスチックを採取して、どうしていくかを考える『マイクロプラスチック撲滅大作戦』。そして6年前から毎年6~7回やっている海底のごみを潜って直接回収したり海岸清掃をてくる『城ヶ島・茅ヶ崎で海底および海岸PGT大作戦』、そして去年から始まった『プラゴミバスターズ 三匹のおっさん』になります」

海底PGT大作戦の様子。

「……失礼ながらPGTとは何の略なんでしょうか」

豊田「プラスチック・ごみ・獲ったどぉ(笑)」

「……(笑)」

やがて海がごみだらけになる未来が見えてくる

「NPO法人海の森・山の森事務局が発行している『大岡川ニュース』を読んでいて衝撃的だったのが、茅ヶ崎沖の海底でプラスチックごみの溜まり場を発見したという報道があったということなんですが、そのあたりも含めて詳しくご紹介いただければと思います」

豊田「これはダイバーや釣り人としての勘といいますか、そういう経験から『海底には海流などの作用でごみが集まってる場所があるんじゃないか』と思って、あちこちを潜って清掃活動を行っていたんですが、2018年、ついに茅ヶ崎で見つけてしまったんです。特定の海底であたり一面にとてつもない量のごみが集積していました」

「どれくらいだったのでしょう」

豊田「見渡す限りのごみの山で、厚さもすごくて掘っても掘ってもごみの層。そして、回収ができないんです。試しに拾おうとすると、劣化していてその場でバラバラになってしまった」

茅ヶ崎の海底で発見されたゴミ溜まり。この件は神奈川新聞にも報道された。

「先日、房総半島沖水深6000mの深海でも大量のプラごみが溜まっているという『JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)』の発表がありました。こういうものが存在するのではと言われていたそうですが、回収することもできず、いったいいつからこんなものがあるのか、これが環境にどのような影響を与えているのか検討もつかないという恐ろしいニュースでした」

豊田「2050年には海に生息する生物の総量を海に投棄されたプラスチックごみの総量が上回るという試算があります。海にごみがあっても自分たちには手が届かないし関係がないと感じるかもしれませんが、プラスチックごみは分解されず微細化して生態系を汚染し、やがて我々の口に入ってくると考えられます。陸上で生きていると実感がわきませんが、とてつもないことが進行している。未来の子どもたちにこんな地球を渡したくはないですね。この問題はなんとしても伝えていかないといけない」

「豊田さんは小学校などで『環境出前授業』など啓発活動をやられているかたわら、実際にごみがある現場に通って回収するという活動を行っています。実感としてやはり多いものなのでしょうか」

豊田「多いです。三浦半島先端の城ヶ島の海底PGTでは、毎回1日あたり120kgものごみを回収しています。ちなみに50%以上が釣り具関連で、エギやルアー、オモリや仕掛けなどの釣り具です。城ヶ島は東京湾や相模湾から流れてくるごみがたくさんあるだろうと思って潜っているわけですが、釣り具は流れてくるものだけではありません」

「ものすごく耳が痛い話です。そうなっているんじゃないかとは思っていましたが……」

豊田「隔週ペースでやっている『大岡川PGT大作戦』では、1日あたり60kgほどを回収しています」

「大岡川は横浜のごみがやがて行き着く場所だからだとは思いますが、ものすごい量のごみがどんどん海に出ていっているということになるんですね」

豊田「よかったら今度は活動を見にいらしてください。実感が湧くと思います(笑)」

「ぜひお伺いさせてください」

NPO法人海の森・山の森事務局の一般参加型企画の参加方法について

「最後に、『プラゴミバスターズ 三匹のおっさん』を含め、NPO法人海の森・山の森事務局の活動は参加型の企画が多く、関心のある方は実際に参加して現場の実感を体験できるようになっています。参加方法を教えてください」

豊田「『プラゴミバスターズ 三匹のおっさん』はこのあと三浦半島以降都市部が主になってくるため、道具の手配や安全のことを考えて、一般参加の募集はごく一部にしようかと考えているところです。その他の活動はFacebookのNPO法人海の森・山の森事務局ページからメッセージを送っていただくか、私のメールアドレス(toyo-da@nifty.com)宛に参加希望の連絡を送ってください」

「プラゴミバスターズ 三匹のおっさん」踏破記録

第1回 湯河原~真鶴・福浦漁港

行程:4.1km
回収ごみ内訳 : ビン・缶・金属 0.25kg、ペットボトル 0.85kg、プラスチック 1.34kg、合計 2.44kg

第2回 真鶴・福浦漁港~真鶴・三ツ石

行程:4.15km
回収ごみ内訳 : ペットボトル 1.18kg、プラスチック 2.55kg
合計:3.73kg

第3回 真鶴・三ツ石~真鶴・岩漁港

行程:6.825km
回収ごみ内訳 : ビン・缶・金属 0.78kg、ペットボトル 2.117kg、プラスチック 9.37kg、その他 0.158kg
合計:3.992kg

第4回 真鶴・岩漁港~屏風岩隧道

行程:2.72km
回収ごみ内訳 : ペットボトル 8.886kg、プラスチック 12.213kg
合計:21.099kg

第5回 屏風岩隧道~根府川

行程:3.53km
回収ごみ内訳:ビン・缶 0.134kg、ペットボトル 10.778kg、プラスチック 13.057kg
合計:23.969kg

第6回 根府川~早川

行程:4.99km
回収ごみ内訳:ビン・缶・金属 1.578kg、ペットボトル 3.017kg、プラスチック 2.973kg
合計:7.568kg

第7回 早川~小田原山王川河口

行程:5.56km
回収ごみ内訳:ペットボトル 2.707kg、プラスチック 5.048kg
合計:7.755kg

第8回 小田原・山王川河口~国府津

行程:7.95km
回収ごみ内訳:ペットボトル 3.227kg、プラスチック 14.525kg、その他 1.001kg
合計:18.753kg

第9回 国府津~二宮・袖が浦海岸

行程:5.65km
回収ごみ内訳:ビン・缶・金属 1.51kg、ペットボトル 1.279kg、プラスチック 11.429kg
合計:14.218kg

第10回 二宮・袖が浦海岸~大磯・照ヶ崎海岸

行程:6.78km
回収ごみ内訳:ビン・缶・金属 4.275kg、ペットボトル 1.299kg、紙ごみ 0.450kg、プラスチック 17.617kg
合計:23.641kg

第11回 大磯・照ヶ崎海岸~平塚漁港

行程:8.83km
回収ごみ内訳:ビン・缶・金属 8.212kg、ペットボトル 1.723kg、プラスチック 35.370kg、吸殻 0.339kg(3,120本)、その他 1.287kg
合計:46.931kg

第12回 平塚漁港~茅ヶ崎・ヘッドランドビーチ

行程:11.18km
回収ごみ内訳:ビン・缶・金属 1.966kg、ペットボトル 0.807kg、プラスチック 21.163kg、吸殻 0.145kg( 1,230本)
合計:24.081kg

第13回 茅ヶ崎・ヘッドランドビーチ~藤沢・鵠沼海岸

行程:7.25km
回収ごみ内訳:ビン・缶・金属 2.499kg、ペットボトル 0.483kg、プラスチック 29.267kg、紙ごみ 0.173kg、吸殻0.195kg(1,625本)
合計:30.367kg

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