【資源管理の責任者】
「持続可能性」の尊重がうたわれる五輪憲章の下、東京2020は大会史上最高レベルの資源化に挑んでいる。1964年大会を機に近代化されたごみ収集のように今大会の資源管理は後世になにかを残せるだろうか。
海洋におけるプラスチック汚染問題など、いかにごみを減らすかは現代社会の大きなテーマになっている。当然、五輪も例外ではない。五輪憲章にも「持続可能性」の尊重がうたわれており、今や「ごみをどう扱うか」でその国の民度が測られると言っても過言ではない。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森浩志は、“廃棄物対策のエキスパート”として、大会史上最高レベルの資源化に挑んでいる。
「2012年のロンドン大会では、運営時の廃棄物の再使用・再生利用率が62%でした。来年の東京大会では、それを上回る65%にすることを目指しています」
これがいかに難しいかは東京の家庭ごみのリサイクル率(熱回収を除く)と比較すればわかる。一番高い多摩地域ですら約37%。あらゆるごみの可能性を見直さなければ目標は実現できない。『Zero Wasting』(資源を一切ムダにしない)という大目標を持続可能性運営計画で打ち出した。
「資源管理の基本はリデュース(発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)の3R。たとえば大会の備品・機材はレンタル・リースを活用。当然、購入せざるをえない物もありますが、大会後に売却や譲渡を試みる。それがダメでも金属などを回収してリサイクルします」
では大会中にごみはどれだけ出るのか? ペットボトル(1413t)など、合わせて6915tと推計している。
「例えば国立競技場では1日の排出量が最大約40tと見ています。そのうちペットボトルは約35万本。意外に多いのが段ボール。ペットボトルは段ボールに詰められて搬入されるからです。スタッフの弁当の容器も軽視できない量になるので、容器の材料を選び、リサイクルします」
ここで不可欠なのが、分別の徹底だ。観客エリアにおいてロンドン大会では3分別のみだったのに対し、東京大会では「ペットボトル」、「紙容器」、「プラスチック」、「食べ残し・ティッシュ・割箸等」、「飲み残し」の5分別に。都内会場の一部では、都が募集した分別ナビゲーターが、主要なごみ分別ボックスの周りで案内する予定だ。
現在のごみ収集は1964年のレガシー。
今回、最大の挑戦になるのが、使い捨てプラスチック対策だ。食品などで汚れているプラスチックはリサイクルが難しい、いわゆる「未分別混合プラ」だ。2017年末に中国が廃プラスチック類の輸入を禁止して以降、国内に滞留し、専門業者による有料の焼却処分が主流になってきた。
だが、通常ではやらないことにこそチャンスがある。汚れているプラスチックをリサイクルできる業者を、森は見つけ出した。
「会場から出るプラスチックごみの多くは、菓子、パン、サンドイッチ、おにぎりの袋。異物が混ざっていてもリサイクルできる業者に相談したところ、チャレンジしましょうと言ってもらえた。同じように汚れた紙容器も従来は焼却されていたのですが、今回はそれをトイレットペーパーにする。プラスチックや紙の焼却よりコストはかかりますが、この2つに挑むことで65%を達成できると確信しています」
56年前、日本ではまだごみ収集が近代化されておらず、街角にごみがうず高く積まれるなど衛生面で遅れていた。だが1964年の東京五輪を機に、青い大きなポリ容器が導入され、パッカー車(圧縮装置付きのごみ収集車)が決められた曜日に回収するようになった。五輪のレガシーの1つだ。
「廃棄物処理業者は小さい会社が多く、新型コロナウイルスの影響で事業ごみが減り、厳しい経営環境にさらされています。しかし循環型社会が重要視され、ごみの資源化にビジネスチャンスが広がってきた。汚れたプラスチックや紙の資源化の可能性を示せれば、参入する業者が増え、新たなリサイクル市場を生み出せ、レガシーとして残せるのではないかと期待しています」
森浩志もりひろし
1951年8月11日、長野県生まれ。東京理科大学を卒業し、東京都清掃局の機械技術者として入都。清掃工場に籍を置きながら、都立大大学院で排ガスNOx削減を研究した後、豊島清掃工場長、足立清掃工場長などを経て、東京都環境局廃棄物対策部長、環境局環境政策部長、環境局次長と廃棄物関係の仕事に長年従事してきた。現在は東京2020大会組織委員会の総務局・大会運営局兼務次長として、大会の資源管理や清掃を統括している。根っからの山好きで、日本百名山は9年前に夫婦で完登した。
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June 17, 2020 at 02:19AM
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東京五輪が挑む史上最高の資源利用。国の民度は「ごみの扱い」でわかる?(木崎伸也) - Number Web - ナンバー
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